「もったいない(Mottainai)」から木を乱伐しなかった江戸文明

緑豊かな日本列島は「もったいない(Mottainai)」の伝統のおかげ。

 現在、私たちが使っている「紙」は木材を原料としてパルプという植物繊維から作られています。江戸時代の和紙も木が原料でしたが、「もったいない(Mottainai)」から木を切らなかったのです。

 イギリス公使オールコック安政6年(1858年)来日)は和紙の製造に興味を持って記しています。
「日本ではガンピ、ミツマタ、タモ(タラジュのことか)という三つの木が製紙の原料を提供しているらしい。最初のものは主成分ないし基本で、熱海から数マイルのところに8フィート(約2m40cm)ほどの高さではえている灌木である。この樹皮を剥いで乾燥させ、それから季節(冬がもっともよい)がやってくると、外側の緑の層をこすりおとせるようになるまで水にひたし、このようにしてはいだ樹皮をちょうど食用野菜と同じほど軟らかくなるまで煮てアクを出し、その後に二本の棍棒でたたいてパルプ状にするか、すくなくとももういちど水にひたしてパルプになるようにする」

 普通の紙は楮(こうぞ)の木の皮を使います。春になって生えた一年生の枝を冬に切って、皮を精製して紙を作りました。来年になれば枝はまた生えますから、1年分の太陽エネルギーによって生産されたものだけを紙の製造に使うのです。切ってしまえばそのときは多くの原料がとれるでしょうが、植林しても回復するまで数年かかってしまいます。

 紙を作るのは木を切らなくて済みますが、建築材や家具、工芸品は木そのものが必要です。燃料にも薪が必要です。江戸は100万都市ですから、その需要は大変なものです。切りっぱなしだと森林は消失したでしょうが、「もったいない(Mottainai)」精神の日本人はそうはさせませんでした。

 江戸の農民たちは武蔵野台地に木を植えました。そして国木田独歩の随筆で知られるように豊かな林が育っていきました。

 国木田独歩「武蔵野」(明治34年)より
「昔の武蔵野は萱原(かやはら)のはてなき光景を以て絶類の美を鳴らして居たように言い伝えてあるが、今の武蔵野は林である。林は実に今の武蔵野の特色といっても宜(よ)い。則(すなわ)ち木は主に楢(なら)の類(たぐい)で冬は悉(ことごと)く落葉し、春は滴(したた)るばかりの新緑萌え出ずるその変化が秩父嶺以東十数人の野一斉に行われて、春夏秋冬を通じ霞に雨に月に風に時雨に雪に、緑陰に紅葉に、様々の光景を呈するその妙はちょっと西国地方又た東北の者には解し兼ねるのである」

 農民たちは代々植物栽培のノウハウを受け継いでいき、立木密度や伐採の時期などを工夫し、長年の間に持続可能な管理方法を確立していきました。杉並区というのは文字通り杉が育てられ、高井戸のあたりでは建築用の杉を育てるのが盛んでした。良質な材木は磨き丸太、丸柱、面皮柱のような建築材料となり、細くてまっすぐなのは船用の竿になりました。節が多かったり曲がっていたりして高級材として使えないものは、建設の足場用になり、無駄なく売られ使われました。
 植林すると、12年目あたりから間伐を初めて、その後、3年か5年間隔で少しずつ切っていき、40年かけて全部切ってしまいます。この間にも植林は続けるので、絶えず新しい木を育ててはさまざまな段階で伐採し、出荷していたのです。慎重に管理し、終わることのないリサイクルを完成させていたのです。「もったいない(Mottainai)」精神のなせる技です。

 現在、よく中共中華人民共和国)の森林伐採が問題となるニュースを見かけ、近年、ようやく植林を始めたようですが、これまで植林という発想がなかったためです。「もったいない(Mottainai)」文化は日本独自のものです。朝鮮半島も明治の頃までは木を乱伐して禿山と化していました。

 旅行家 イザベラ・バード 朝鮮紀行 1894年
「ソウル、海岸、条約港、幹線道路の周辺のはげ山は非常に目につき、国土に関してとても幸先のよくない予想をいだかせやすい。朝鮮南部の大部分において、木立という名に値するものが残っているとすれば、それは唯一、墓地のあるおかげである」

 山林が荒廃すると洪水も起こりやすくなります。「治山しなければ治水しても効果は無い」として、日韓合邦後に日本の「もったいない(Mottainai)」精神が朝鮮半島にも適用され、森林は蘇っていったのです。



参考文献
 講談社文庫「大江戸リサイクル事情」石川英輔(著)
 岩波文庫「大君の都」オールコック(著)/ 山口光朔(訳)
 講談社学術文庫「イザベラバードの日本紀行」イザベラ・バード(著)/ 時岡敬子(訳)
 新潮文庫「武蔵野」国木田独歩(著)
 扶桑社「日本の植民地の真実」黄文雄(著)
参考サイト
 FAO、世界の森林破壊に歯止め 中国など大植林で http://www.47news.jp/CN/201003/CN2010032601000144.html


Mottainaiは世界の合言葉  http://mottainai.info/
Mottainai」は消費削減(リデュース)、再使用(リユース)、資源再利用(リサイクル)、修理(リペア)の四つの「R」。

添付画像
 杉原紙 Auth:Tomomarusan(CC)

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