灯りも「もったいない(Mottainai)」とした江戸文明

電灯はこまめに消しましょう。もったいない(Mottainai)から。




 現代では蝋燭(ろうそく)を灯りに使うのは誕生日のケーキの上にたてて「ふっー」と消したり、花火をするときの種火にしたりするぐらいでしょうか。使い終わったロウソクはどうしているかというとゴミ箱行き、あるいは芯が燃えつきたらそのまま土中に廃棄でしょう。江戸時代にそんなことをすると「もったいない(Mottainai)」と言われたのです。

 今のロウソクはパラフィンやステアリンを使った西洋ロウソクですが、江戸時代のロウソクは木蝋(もくろう)といい、櫨(はぜ)や漆(うるし)など、ウルシ科の植物の実に含まれる脂肪分を抽出して作りました。作る工程が実に手間で、漂白の工程では30日も日光に当てなければなりませんでした。ですので、いくら人件費が安い時代といってもロウソクは高価で、広間に使う大きな百匁(375g)掛けのロウソクは1本200文しました。現代感覚でいうと約9,500円になります。従って、ロウソクを使っていたのは裕福な大名や豪商ぐらいだったのです。

 ロウソクは燃え尽きても垂れたしずくが固まって残ります。これは捨てずに「ロウソクの流れ買い」という業者が回ってきて目方を計って買い取っていたのです。捨てるなんて「もったいない(Mottainai)」のです。このロウに魚油や鯨油を混ぜて、提灯などに使う安いロウソクを作りました。油を混ぜるとニオイが出ますが、外で使う分には問題ありません。夜店ではロウの製造過程で出る絞りかすをまぜたりしました。絞りかすにもロウが5%ぐらい残っていましたので、それも「もったいない(Mottainai)」から照明用として燃やしたのです。

 庶民の灯りはイワシやニシンなどの魚油(ぎょゆ)のほか、菜種(なたね)油を使っていました。菜種油は高価で「菜種油一升で米が二升買える」と言われ、裕福な家でしか使いませんでした。この油は菜種の場合、干してついて粉にして絞り出して製造していました。絞りかすはチッソを5%ぐらい含んでおり、「もったいない(Mottainai)」からチッソ肥料として再利用しました。

 照明器具は行灯(あんどん)が使われました。よく時代劇に出てくるでしょう。周りに紙をはったものです。四角いのや丸いのや色々なデザインがありました。この中に小皿をおいて油を入れ、灯心を浸して火をつけたわけです。このほか瓦灯(かとう がとう)という陶器製の照明器具も使われていました。
 ナタネ油は1合(180cc)で41文。一晩にだいたい四杓(しゃく)か五杓(一杓は18cc)は消費しましたから、1日約950円程度コストになります。月に換算すると約3万円になりますから、ナタネの電灯代は高い高い。庶民はそれより半値、あるいは1/3の魚油を使って1万円から1万5千円の電灯代です。これでも電灯代だけですから高い。「もったいない(Mottainai)」し、魚油は臭いし、早く寝よう、となるわけです。夜ふかしせず、朝は早く起きる。「早起きは三文の得」といいます。健康にも良しです。

 ロウソクにしろ、菜種油にしろ魚油にしろ、これらは1〜2年の太陽エネルギーによって生産されたものです。それを1〜2年で照明用として消費します。「もったいない(Mottainai)」から垂れたしずくから、カスまでとことんリサイクルします。トータルで何も増えないし何も減りません。現在では百万年以上かけて作られた化石燃料を無分別に消費して電灯に必要な電気を作り出しています。消費したエネルギー資源が回復するのにいったい何百万年かかるのでしょうか。それまで資源は持つでしょうか。もちろん今から江戸時代の生活に戻ることはできませんが、我々にも使わない電灯は消す、早寝早起きといった「もったいない(Mottainai)」は実行できるでしょう。




参考文献
 講談社文庫「大江戸リサイクル事情」石川英輔(著)
 河出書房新社「江戸の庶民の朝から晩まで」歴史の謎を探る会(編)
 双葉文庫「時代小説『江戸』事典」山本眞吾(著)
 新潮新書武士の家計簿磯田道史(著)


Mottainaiは世界の合言葉  http://mottainai.info/
Mottainai」は消費削減(リデュース)、再使用(リユース)、資源再利用(リサイクル)、修理(リペア)の四つの「R」。


添付画像
 浮世絵師・鈴木春信の絵(PD)

広島ブログ おクリックで応援お願いします。