ディマプールへ進撃せよ 〜 インパール作戦

 「コヒマ占領後、引き続きディマプールに突進してもらいたい」

 昭和19年(1944年)ビルマインパール作戦で15軍牟田口司令官からコヒマを攻略する31師団へこの司令が出されます。しかし、これはインパール作戦計画にはないものでした。31師団の佐藤氏団長は黙殺の態度で聞き流しています。

 ディマプールは英軍の物資集結基地で、英ディマプール方面33軍団最高司令官スタッフォード将軍は戦後、牟田口司令の指示通りディマプールを攻撃していたらインパール作戦は成功していた可能性が高かったことを認めています。しかし、この頃のビルマ戦線では雲南方面の状況については特殊情報班の活躍により通信を傍受解読していましたが、インド方面はインド国民軍将兵を使って潜入させ情報収集していたものの成果はあがらなかったようで、牟田口司令官が情報を持っていたとは考えにくく、ディマプール進攻は一種の博打のような性質のものだったと考えることができます。

 英軍は日本軍は1連隊程度でやってくると想定していたため、31師団はコヒマを急襲し、占領に成功。この後は長期持久陣地攻防になっており、作成開始一月半後の5月に入ってから英軍の戦車が大々的に出現しています。この状況下でディマプールへ迂回進撃するタイミングがあったとしたら占領直後か?また、ディマプールへ進撃したとしても制空権のない中、敵中に孤立して新たな展開を期待できたか?
 英印軍は戦力を後退集結させて日本軍を迎え撃つ戦法に出ましたが、これには広大な領土を戦わず放棄することになるため、インド国内への影響、インド兵士らの士気低下が懸念され、難しい判断であったようです。日本軍がディマプールへ進撃していたらインド国内、インド兵士に動揺が走り新展開の可能性があったかもしれません。
 しかしながら、ディマプール進撃の可能性を打ち消したのは牟田口司令官の人望のなさであったと思います。牟田口司令官はインパール作戦の撤退を決めた後、このように訓示しています。

「諸君、佐藤烈兵団長は、軍命に背きコヒマ方面の戦線を放棄した。食う物がないから戦争は出来んと言って勝手に退りよった。これが皇軍か。皇軍は食う物がなくても戦いをしなければならないのだ。兵器がない、やれ弾丸がない、食う物がないなどは戦いを放棄する理由にならぬ。弾丸がなかったら銃剣があるじゃないか。銃剣がなくなれば、腕でいくんじゃ。腕もなくなったら足で蹴れ。足もやられたら口で噛みついて行け。日本男子には大和魂があるということを忘れちゃいかん。日本は神州である。神々が守って下さる…」

 牟田口司令官が勘違いしていると思われるのは、確かに皇軍というのは司令官の言うとおりですが、戦場という過酷な状況下で直接的に兵を皇軍として突き動かすのは司令官であり、司令官に人望がなければ兵は動かないということだと思います。牟田口司令官には人望がなかった。佐藤師団長などはインパール作戦構想に「笑止の沙汰」と漏らしていました。第15軍内では牟田口司令官の独裁状態で参謀も意見が言えないほどでした。司令官がこれでは兵は決まった作戦通り動くのがせいぜいでしょう。たとえば日露戦争旅順戦の乃木将軍のような人がディマプールへ行け、といえば兵は玉砕覚悟で突進したでしょう。

 方面司令官の河辺中将も人望がなかった。兵士の間ではよくない噂が流れていました。英軍のプロパガンダも入っていたかもしれませんが、ラングーンで将官旗を立てた司令官の車が通ったとき、乗っていたのはビルマ人の複数の娼婦だったことが目撃されています。

 インパール作戦は人事の時点で失敗の種は撒かれており、挑戦的な作戦を認可してはならなかったといえます。
 しかし、人望のない司令官の下、日本将兵は無駄死にしたのかといえば、そうではなかったと思います。英第十四軍司令官ウイリアム・J・スリム中将は自著で以下のように述べています。

「彼ら(日本軍)がアッサムにおける勝利は遥かな密林の土地から遠くへ知れ渡るであろうと考えたのは正しかった。彼らが各部隊に対する訓示で声明した如く世界戦争の全過程を変えたかもしれない」



参考文献
 「インパール作戦」土門周平著
 「真実のインパール」平久保正男著
 「『太平洋戦争』は無謀な戦争だったのか」ジェームス・B・ウッド「著」 茂木弘道「訳・注」
 「アーロン収容所」会田雄次
 「世界から見た大東亜戦争」名越二荒之助編
参考サイト
 「インパール作戦」「牟田口廉也

添付画像
 河辺正三(PD)


Imphal operations インパール作戦
http://http://www.youtube.com/watch?v=cRWYIhPMlBQ
http://www.youtube.com/watch?v=cRWYIhPMlBQ

広島ブログ クリックで応援お願いします。