原爆投下は予告されていたのか

陰謀論は本当か。




 昭和20年(1945年)7月28日、四機のB24コンソリデーテッドが呉を空襲し、うち二機が広島上空に飛来しました。双葉山の高射砲陣地が火を吹き、2機を撃墜しました。1機は五日市と井口の中間辺りに墜落しました。警防団がパラシュート降下で生存していた2名のアメリカ兵を捕らえ、急行した歩兵第一次補充隊に引き渡しました。二人のアメリカ兵搭乗員は付近の旧家で尋問を受けました。当時12歳だった木村ヨシ子さんはアメリカ兵が上手な日本語で次のように言ったことを覚えていました。

「僕たちはウソは言わない。8月6日、ヒロシマは焼け野原になる」

 B24二機の捕虜は合計で11名(10名の説あり)になり、将校は東京(大本営)に転送し、下士官以下は、中国憲兵隊司令部・歩兵第一補充隊・中国軍管区司令部の三か所に分散抑留しました。歩兵第一補充隊の増本春男衛生上等兵は捕虜の食事や傷の手当等の世話をしていましたが、捕虜が何かに怯えて「おそろしい、おそろしい」と言っているのを聞いています。通訳の見習士官が、「捕虜になったから恐ろしいのか?」とたずねると、捕虜はこう答えました。

「いや、ここにいたら死ぬるのだ。近いうちに広島が全滅するような爆弾が投下される。ここにいては死ぬる」

 このとき捕虜の尋問で広島が「爆撃禁止都市」に指定されていることがわかりました。これは原子爆弾の威力を正確に把握するため真っ新な都市を残すためです。西日本では広島、長崎、小倉です。B24二機は爆撃禁止は知っていましたが、広島上空を飛んではならない、とは言われていなかったので広島上空を飛び、撃ち落とされたのです。

 こうした捕虜の尋問から双葉山の第二総軍司令部や広島城の中国軍管区司令部は8月6日の原爆投下を知っていた、とする説があります。古川愛哲(著)「原爆投下は予告されていた」では第二総軍司令部は畑俊六以下、将校と参謀部には例外の二人を除いて死者はいない、としています。「第二総軍の首脳と中国軍管区司令部の一部は、せいぜい安全な場所で新兵器の威力を観察したのだ」としています。ところが、中国軍管区司令官の藤井祥治陸軍中将は原爆で死亡しています。

広島市編 広島原爆戦災誌
「中国軍管区司令官藤井祥治陸軍中将は、官舎(西練兵場西南隅)の居室で、軍服に着かえて、刀を片手に部屋を出ようとしたときに被爆したと言われる。居室跡と思われるあたりに黒焦げになった遺骨が発見され、そのそばに金の総入歯と、焼けた軍刀が残っていた。夫人は庭の池をまわって、塀の下で半焼けのまま倒れていた。燃え残った帯の切れはしと、そばに落ちていた財布で、やっと判定された」

 捕虜の尋問結果は重要な情報であり、それを司令官が知らないわけありませんが、原爆投下が予告された8月6日に司令官が被爆して死亡しているのです。第二総軍司令部は双葉山にあったので爆心地からは距離があります。生存者が多いことに不自然さはありません。

 木村ヨシ子さんの証言には首をひねることがあります。アメリカ兵が上手な日本語を話したという点です。旧家で尋問を受けたのはジュリアス・モルナー軍曹とロバート・ジョンストン(チャールズ・ヴァムガートナー軍曹という説あり)ですが、日本語が出来たのか?これは古川愛哲氏の著書には検証が記載されていません。同じようにこれを原爆投下の予告としている鬼塚英昭(著)「原爆の秘密」にも木村ヨシ子さんの証言を引用していますが、日本語のことは検証していません。ゴードン・トマス、マックス・モーガン=ウィッツ「エノラ・ゲイ」にこのB24撃墜のことが書かれていますが、金井弘人伍長が通訳として二人のアメリカ兵の尋問にあたったとだけあります。
 それからアメリカ兵が「8月6日」と言っていることです。トルーマンの原爆投下指令は7月25日ですが、このときはまだ具体的な投下日は決まっていません。8月2日に広島を第一目標として6日投下の命令が発令されています。B24を撃墜した日は7月28日です。
 もう一つ原爆情報はアメリカ軍の中でもトップシークレットです。原爆投下部隊のテニアン第509混成部隊で隊員は最終的なターゲットは知らされず、見聞きしたことは口外無用、他の部隊との接触は厳重に管理されていました。エノラ・ゲイの搭乗員のひとりジェイコブ・ビーザー中尉は「爆弾を投下する時と場所について、直前まで何も知らされていませんでした」と証言しており、部隊員でさえ日時は知らなかったのです。他の部隊、しかも沖縄から飛んできたB24の下士官レベルが正確な日を知り得るでしょうか。

 よく原爆について陰謀説が言われますが、直接的な証拠は今のところ皆無です。あくまで仮説をたて推論を展開しているだけですので、聞く側は注意が必要です。




参考文献
 広島市編「広島原爆戦災誌」
 講談社「原爆投下は予告されていた」古川愛哲(著)
 成甲書房「昭和天皇は知っていた 原爆の秘密」鬼塚英昭(著)
 TBSブリタニカエノラ・ゲイ」ゴードン・トマス、マックス・モーガン=ウィッツ(著) / 松田銑(訳)
 立風書房「原爆搭載機『射程内に在り』」NHK広島放送局原爆取材班 久保安夫・中村雅人・岩堀政則(著)
参考映像
 NHKスペシャル「原爆投下 活かされなかった極秘情報」

添付画像
 原爆投下によりできたキノコ雲(PD)

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