幕末に"モノづくりのニッポン"をみた外国人

技術の日本は既に育っていた。




 フランス海軍士官スエンソンは慶応二年(1866年)に来日しました。スエンソンは後に大北電信会社を経営し、日本と大陸を結ぶ通信路を施設した人です。

 スエンソンは慶応三年(1867年)に横須賀の造船所を見学に訪れました。横須賀の造船所は幕府がフランスのベルニー技師を招いて建設したものです。スエンソンの記録では小さな蒸気船を建造中でした。ここでスエンソンは日本の職人を次のように評価しています。

「ひょっとすると日本の職人の方が西欧人より優秀かも知れなかった。日本のものよりはるかにすぐれている西欧の道具の使い方をすぐ覚え、機械類に関する知識も簡単に手に入れて、手順を教えてもその単なる真似事で満足せず、自力でどんどんその先の仕事をやってのける。日本人の職人がすでに何人も機械工場で立派な仕事をしていた」

 鋭い観察です。「学ぶ」は「まねぶ」です。謙虚に物事を学び、そこから創造性を発揮し、独自の技術に作り変えていくのが日本人です。現在の日本の技術を支えているのはこの精神です。日本人のこの特性は既に江戸時代に完成されていました。幕末期に来日したイギリスの公使オールコックは日本の技術を次のように評価しています。

「かれらの文明は高度の物質文明であり、すべての産業技術は蒸気の力や機械の助けによらずに到達できるかぎりの完成度を見せている」

 「黒船」で日本にやってきたアメリカのペリー提督が"技術大国日本"を予言しています。

「機構製品および一般実用製品において、日本人はたいした手技を示す。彼らが粗末な道具しか使ってなく、機械を使うことに疎いことを考慮すると、彼らの手作業の技能の熟達度は驚くほどである。日本人の手職人は世界のどの国の手職人に劣らず熟達しており、国民の発明力が自由に発揮されるようになったら、最も進んだ工業国に日本が追いつく日はそう遠くないだろう。他国民が物質的なもので発展させてきたその成果を学ぼうとする意欲が旺盛であり、そして、学んだものをすぐに自分なりに使いこなしてしまうから、国民が外国と交流することを禁止している政府の排他的政策が緩められれば、日本はすぐに最恵国と同じレベルに到達するだろう。文明化した国々がこれまでに積み上げてきたものを手に入れたならば、日本は将来きっと機械製品の覇権争いで強力な競争国の一つとなるだろう」

 これはもうズバリ予言的中でしょう。

 黒船がやってきた年(1853年)に幕府は黒船の情報をもとに大型軍艦「鳳凰丸」建造に着手し、翌年には完成させています。この製造には嘉永二年(1849年)に浦賀と下田にやってきたイギリス軍艦マリーナ号の情報ももとになっていました。蒸気機関こそないものの、見て真似て作ってしまったわけです。
 また、ペリーは日本人に最先端技術を見せつけてやろうとして、蒸気機関車の模型を贈っています。ロシアのプチャーチン提督も長崎にやってきて蒸気機関車の模型を持参していました。模型といっても蒸気機関で立派に動くものです。佐賀藩がこれを見て佐賀藩精煉方を設立して2年の間で模型を完成させて藩主の前で走らせています。大したものです。ちなみに模型製作に関わった佐賀藩の技術者の一人に田中久重という人がいます。知る人ぞ知る「からくり儀右衛門」は東芝の創業者です。

 "匠"の技は江戸期に完成され、それは日本人の"モノづくり"の精神として脈々と現代に受け継がれてきているわけです。余談ですが、大東亜戦争終戦後に日本にやってきた連合国軍兵士は「道にビール缶を捨てれば翌日玩具になって銀座で売られる」と言い日本人の創造性に舌を巻いたといいます。



参考文献
 講談社学術文庫「江戸幕末滞在記」エドゥアルド・スエンソン(著)/ 長島要一(訳)
 岩波文庫「大君の都」オールコック(著)/ 山口光朔(訳)
 PHP新書「日本はなぜ世界でいちばん人気があるか」竹田恒泰(著)
 新潮社「1945日本占領 フリーメイソン機密文書が明かす対日戦略」徳本栄一郎(著)

参考サイト
 Japan On the Globe(274) 国際派日本人養成講座
  国柄探訪: 日本の技術の底力 http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h15/jog274.html
 東芝公式サイト
  田中久重物語 http://kagakukan.toshiba.co.jp/manabu/history/spirit/roots/hisashige/index_j.html

添付画像
 明治時代の横須賀造船場。川弘文館「明治の日本」より。(PD)

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