日露開戦ロシア側の言い分を使う

どうしてロシアのいい分しか書かないのでしょうか。それでも日本人?


 梅田正巳著「近代日本の戦争」では日露開戦で日本が宣戦布告前にロシアを攻撃したと述べています。
梅田正巳著「近代日本の戦争」 P87

宣戦布告前に行動を起こした日本陸海軍

 交渉が行き詰ったまま年が明けた1904年2月4日、明治天皇の前での御前会議はついに開戦を決定します。6日、駐ロ日本公使は、ロシア政府に対し交渉の中止と国交断絶を伝える文書を提出しました。
 この国交断絶の文書を提出した6日、陸軍の先遣隊として四個大隊2200人を乗せた輸送船三隻が、巡洋艦五隻に護衛され、仁川をめざして佐世保港を出港しました。この先遣隊は8日夜半に仁川に上陸、二個大隊がソウルに向かい、そのまま入城します。在韓ロシア公使はすでにソウルを去り、韓国政府内の親露派の動きは封じられました。ロシアへ宣戦布告が発せられるのは10日ですから、以上の行動はすべて宣戦布告前に実行されたのです。

 これはロシア側の抗議をそのまま書いているのですよ。日本側は反論しています。小村寿太郎の反論です。※1
「露国の公表文によれば、日本は平和を熱心に維持せんとする露国の不意に乗じ、作術を以って奇勝を博したと非難するが、露国に平和を愛する念のなかりしことは、徒らに時局を引延ばし、一方に於いて海陸の軍備拡張に汲々たりしを以って容易に之を知るを得べし」

 ロシアが平和を願っているというのは詭弁で、軍備拡張のために時間稼ぎしているではないか、と述べています。そして前年にロシアが満州撤退の約束を破って以来、ロシアが軍備増強してきた事実を列挙して「誰が露国に戦意なく、又戦備なしと言えようか。日本は事態切迫し、この上一日の猶予を許さざるを以って、遂に止むを得ず、その無用に属する談判を断絶し、自衛のために必要の処置を取るに決せリ。故に戦争を挑発さしたるの責は日本にあらずして拠っ却て露国にあり」
 
 ロシアが満州撤退の約束を破って軍備拡張してきているのだから、戦意がある。それを増長させれば日本は脅威で一日の猶予もならなくなった。やむをえない。戦争を挑発してきたのはそちらだ、と反論しています。

「日本は2月6日に於いて露国と談判を終了し、侵迫を受けたる地歩と利権を防護するため、自ら最良と思惟(しい)する独立の行動を取るべきこと、並びに外交関係を断絶し、公使館を撤退する旨を露国に通告せり。独立の行動は一切を意味する。敵対行為の開始また固よりそのうちにあり。仮に露国に於いて之を解すること能はざりしとするも、日本は露国に代わり誤解の責に任ずべき理由なきことは勿論なり。また宣戦交付は敵対行為開始の必要条件にあらざること国際法学者の悉く一致するところにして、現に近代の戦争に於いては宣戦公布は交戦開始後に於いてその常とせり」

 敵対行為の開始は「外交関係を断絶し、公使館を撤退」であり、宣戦公布が開始ではない、それは国際法上正当であるという主張です。近代戦争はすべてそうであると反論しています。

「故に日本の行動は国際法上に於いても毫も(ごうも 少しもという意味)非難すべき点なく、況や(いわんや)その非難の露国より来るに於いては、すこぶる奇と云わざるべからず。何となれば、露国自ら宣戦の布告なく直ちに戦闘行為を行いたることは歴史上その例証きわめて乏しからざるのみならず、1808年に於いては実に外交関係の断絶前に於いてすらフィンランドに出兵したればなり」

 日本は国際法上、非難されないし、ロシアは外交断絶前にフィンランドに出兵したことがあり、非難するのはおかしいではないか、と述べています。
 
 実はロシアは既に日本艦隊が北緯38度以北に進んできたら、日本の砲撃を待たずに攻撃しろ、という命令が出ていました。(ロシアの第39号電訓と言われるもの)※1 つまり、ロシアも対日交戦状態にあることを認識していたわけで、宣戦布告前に日本が攻撃したことを非難したのは単なる詭弁でした。

 梅田正巳氏がロシア側の抗議だけを取り上げました。日本側の反論は無視です。さらにロシアが交戦状態と認めていた史実も隠しました。そして、開戦に先立って宣戦布告を義務づけたのは1907年のハーグで成立した「開戦に関する条約」であり、日露戦争の後の話であることも意図的に伏せています。その証拠にロシアが主張している「国際法違反」という言葉はあえて使わないようにしています。歴史本を出版する人がこのことを知らないはずがありません。こうやって「日本悪」を印象づけているのですね。日本と敵対する立場の国の目線を取り上げ、史実を隠蔽する手法、これが梅田氏の一つの手法であり、戦後、日本悪玉論にも使われてきた手法でありましょう。

 #なんだか、NHKの「坂の上の雲」で梅田氏のこれらのトリックが採用されそうな気が・・・



※1 展転社大東亜戦争への道」中村 粲著 より引用

添付画像
 仁川沖海戦で炎上するロシア艦(PD)

広島ブログ クリックで応援お願いします。