紫電改、発進せず 〜 長崎

大村飛行場から紫電改は発進しなかった。




 昭和20年(1945年)、陸軍特殊情報部では通信諜報調査を行なっていました。それにより日本本土を爆撃するB29が発信する電波の冒頭に一定の符号があることがわかりました。VXXXとあり、V400番台がサイパン、V500番台がグアム、V700番台がテニアンのB29であることがわかりました。そして謎のコールサインV600番台のB29がテニアンに配備されたことを発見し、このB29エノラ・ゲイが広島に原子爆弾を投下しました。

 参謀部ではようやくこのことを重視し、特殊情報部は参謀総長より賞詞を受けました。コールサインV600番台のB29が次にやってきたときは必ず撃墜しなければなりません。

 8月9日、未明。V675のコールサインを傍受します。原子爆弾を積んだB29が再びやってくる!傍受した大田新生中尉は緊張しました。そしてこの情報は参謀本部に伝わりました。

 この話はNHKスペシャル「原爆投下 活かされなかった極秘情報」で紹介されました。NHKスペシャルではここから長崎の大村飛行場の局地戦闘機紫電改」に乗る海軍パイロット本田稔少尉の証言に焦点をあてています。本田少尉は8月6日、たまたま飛行中に広島で原爆が炸裂する瞬間を目撃していました。この次に原爆を積んだB29がやってきたら体当たりしてでも撃墜する覚悟を決めていました。

 午前9時、テニアンを飛び立ったB29ボックスカーは九州に接近していました。NHKスペシャルでは小倉に向かったボックスカーは視界が悪かったため、長崎に向かったと説明し、本田少尉の証言から、大村飛行場に出撃命令が出なかったとしています。長崎には原爆機の情報が伝わっていないということです。

 NHKスペシャルでは小倉のことをさらりと流しましたが、これは例によってある結論を印象づけるためでしょう。小倉では煙幕が張られ、爆撃目標を視認させないようにしていました。よく天候不良とか、前日の爆撃の火災による煙とか言われますが、天候は良好で、空襲警報発令とともにコールタールを燃やすことになっていたようです。歴史資料収集家の古川愛哲氏が警察関係者が八幡製鉄や三菱化成は、煙幕による遮蔽装置を持ち、発令で点火することになっていた」という記録を掲載しているのを見つけており、間違いないでしょう。

 さらに小倉では高射砲がバンバン撃たれ、迎撃戦闘機がB29撃墜へ向かいました。これらは広島とは全く違う動きです。広島では戦闘機が少し接触したぐらいで高射砲は一つも発射しませんでした。これは本土決戦に備え、航空機や武器弾薬の温存が図られていたためで、2,3機のB29は偵察と見られて攻撃してこないと思ったからです。広島は軍都で第二総軍司令部がありました。小倉は広大な造兵廠(ぞうへいしょう)があり武器弾薬が蓄積されていました。どちらも重要な拠点です。小倉にはコールサインV675の情報が届いていた可能性があります。そのため、2,3機のB29でも高射砲が火を吹き、迎撃戦闘機が発進したのではないか?そして実にB29は45分の間に3回小倉に突入し断念しました。原爆投下阻止です。そしてB29は長崎へ向かいました。長崎まで約30分。

 しかし、長崎の大村飛行場では本田少尉の「紫電改」は発進しませんでした。B29が小倉に行ったから安心したのか?小倉で何事もなかったのでB29は帰路だと思って油断したのか?謎です。よくここで陰謀論が出てきて、最初から長崎が目標だったとか、県庁幹部が皆無事だったので長崎への原爆投下を知っていたからとか、言われますが、小倉の状況を考えるとちょっと考えづらいです。県庁幹部が防空壕にいたのは前日に防空課の会議の時間が設定されていたからで、小倉上空でB29が45分も滞留する計算をして前日に時間設定することなど無理です。会議は11時集合、原爆投下は11時2分。小倉でのB29の滞留時間が少なければ被爆していました。知っていたならもっと早い時間に会議の時間設定をするはずです。

 いずれにしろ、特殊情報部も本田少尉も悔しい思いが残りました。

 本田少尉
「B29は落ちない飛行機ではない。私は実際落としていますから。非常に難しいですけどね、落ちない飛行機ではないです」
「今なお、悔しですね。なんで出撃命令を出さなかったのか。それだけ情報がなかったんですかね」

 特殊情報部 大田新生中尉
「くやしいったらありゃしない。わかってたんだから。何か努力をしてくれていたらダメだったと諦めれるかもしれないけど、全然(情報を)使った形跡がないから余計悔しい」

 謎は残りますが、情報収集力、それを判断する力と伝える仕組みは重要であり、大きな教訓といえるでしょう。



参考文献
 文春文庫「大本営参謀の情報戦記」堀栄三(著)
 成甲書房「昭和天皇は知っていた 原爆の秘密」鬼塚英昭(著)
 講談社「原爆投下は予告されていた」古川愛哲(著)
参考映像
 NHKスペシャル「原爆投下 活かされなかった極秘情報」

添付画像
 長崎に投下された原子爆弾によってできたキノコ雲(PD)

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