生きていたタロとジロ 〜 南極大陸

『どうして見捨てたのですか なぜ犬たちを連れて帰ってくれなかったのですか』


 昭和32年(1957年)1月29日午後8時57分(日本時間30日午前2時57分)、日の丸が南極大陸に掲げられました。第一次南極観測隊南極大陸に上陸したのです。観測隊は昭和基地の建設を行います。そして観測隊のうち11名とカラフト犬19頭が越冬することになります。越冬隊は来年、第二次越冬隊と交代する予定でした。

 昭和33年(1958年)1月8日、第二次越冬隊を乗せた南極観測船「宗谷」は厚い氷の海に閉じ込められ動けなくなりました。昭和基地まであと136キロです。この頃、宗谷を含む外国船5隻が氷に閉じ込められ、悪戦苦闘していました。
 1月31日、宗谷に「アメリカの砕氷船に救援を交渉中」との連絡が入ります。アメリカ政府がバートン・アイランド号を派遣してくれることになり、2月7日には到着。バートン・アイランド号の突入のあとを宗谷は進入していきます。しかし、それも限界があり、ついに飛行機「昭和号」を使って、荷物の搬送と一次隊員の収容、そして2次越冬隊員を送り込むことになりました。しかし、昭和号は重量制限が300キロなので、体重60キロの大人が4人乗れば残る60キロが荷物になります。しかも天候次第。11日には11名の隊員と子犬1等、ネコ1匹の収容が完了しました。12日、2次越冬隊員3名と荷物を送ったところで猛吹雪となり、13日も吹雪が続きます。
 松本船長は15日7:00離岸を決定。そしてバートン号と打ち合わせの結果、3名の二次越冬隊員を収容し、外洋へ脱出することになります。最後の昭和号は隊員3名と子犬2匹とその母犬を乗せて昭和基地から宗谷へ飛び立ちました。

 オーロラ観測担当・中村純二 
「その時(昭和号がエンジンの回転数をあげて飛び立とうとしたとき)、突然一直線に並んでつながれていた樺太犬が一斉に吠え立て始めた。しかもその吠え方はただの咆哮(ほうこう)ではなく、実に悲しげな悲鳴にも似た声であった

 24日まで、何とか昭和号を発進できる水路を見つけようとしましたが、ついに断念しました。

 取り残された樺太犬はどうなったか。これはドラマ「南極大陸」、映画「南極物語」でよく知られているでしょう。ただ、実話は物語とはちょっと違います。
 昭和33年(1958年)1月14日、南極観測船「宗谷」は3度目の南極にいました。宗谷から大型ヘリ二機を飛ばしました。二号機から「犬二頭発見」の報が届きます。宗谷船内に驚きと歓声があがりました。
 ここで、ヘリの隊員が降りると犬が駆け寄ってきて飛びついた、というのは誤報のようで、樺太犬も人間も互いに警戒していたのが本当のようです。野生化しているかもしれないからです。樺太犬係の北村泰一昭和基地に飛んだのはその日最後の第六便のヘリでした。北村がヘリから降りたとき、2頭の黒犬は20,30メートル離れて彼を見ていました。このとき2頭の犬は近づいてくるどころか、上目づかいに後ずさりする様子を見せたといいます。北村は記憶にある黒い犬の名前を片っ端から呼んでみました。

「くま!くろ!ゴロ!・・・・」

反応がありません。あきらめかけたとき、タロとジロがいたのを思い出しました。1年前は子犬でしたから、目の前の犬は体つきが全く違います。

「タロ」

するとかすかに尻尾が揺らしました。

「お前はタロか」

こんどははっきり尻尾を振ります。

「するとお前はジロか」

ジロと呼ばれた方はペタリと腰をおろし、招き猫のように右手をあげます。北村は二頭の犬を抱き寄せて泣きました。

 タロ、ジロのニュースは全世界を駆け巡り、ハリウッドのリメイク版を入れて3度映画化されるほど、世界の人々に感動を与えました。



参考文献
 並木書房「奇跡の船『宗谷』」桜林美佐(著)
 新潮社「特務艦『宗谷』の昭和史」大野芳(著)

添付画像
 南極地域観測五十年五百円ニッケル黄銅貨 Auth:As6673

広島ブログ クリックで応援お願いします。

<宗谷 南極探検関連リンク>


白瀬南極探検隊記念館 http://hyper.city.nikaho.akita.jp/shirase/



白瀬日本南極探検隊100周年記念プロジェクト http://www.shirase100.jp/index.html


TBS TBS日曜劇場「南極大陸」 http://www.tbs.co.jp/nankyokutairiku/

船の科学館 南極観測船”宗谷” http://www.funenokagakukan.or.jp/sc_01/soya.html
日本財団図書館 船の科学館 資料ガイド3 南極観測船 宗谷 http://nippon.zaidan.info/seikabutsu/2002/00032/mokuji.htm

みらいにつたえるもの http://www.geocities.jp/utp_jp/soya.html