東條英機の頭をはたいた大川周明 〜 東京裁判


 昭和21年4月から始まった極東国際軍事裁判(以降、東京裁判)では思想家の大川周明も起訴されました。この人は政治家でも軍人でもありません。 法廷で奇声を発したり、東条英機の頭をはたいたことで有名です。梅毒による精神障害と診断され、その後の精神鑑定で異常なしとされましたが、法廷でには戻りませんでした。大川は1930年ロンドン軍縮会議での日本の弱腰外交を見て、このままでは戦争になる、と予見しており、頭の鋭い人だったんだな、と感心したものです。書店でも大川氏の本を見かけましたので見直されているのではないでしょうか。さて、この精神異常は演技だったのでしょうか?

 実は大川は東条英機の頭を2度はたいています。大川は水色の異様なパジャマに素足でゲタをつっかけ法廷に現れたりしています。大川は法廷で「イッツア、コメディ!(「It's a comedy! ”これは茶番だ”)」と叫んだりしています。「芝居小屋から脱出するため自ら演出して脱出に成功した」と見る人もいます。

 東京裁判東条英機の弁護をした清瀬一郎は次のように述べています。
「大川君の頭脳が敏感であればあるほど、このショック(裁判で起訴されたこと)は大である。これがため精神に異常を呈することはありうることである。大川君は平素服装には意を用いる人である。パジャマをまとうて法廷に出るということが既におかしい。
(中略)
もともと本質的な発狂ではなかったので、2,3年の療養で治癒することができた。その時は東京裁判終結していたという偶然の事柄が発生したのではないか。
 ある人が帰宅後の大川君に、ああやったのは(東條のあたまをはたいたこと)気が狂ったのではないかと聞いたところ『いや、やっぱりおかしかった。二日酔いのような気分だったね』と答えたと伝聞した」

 一時的な発狂という認識ですね。

 オランダの判事レーリンクもこの大川氏のことは印象深かったようで、後の回想で以下のように述べています。
「大川は『この裁判は正義の実現ではない、戦争の継続である』といったのだそうです。そういう意見を持つものは正常ではないと医師たちは言ったわけです!個人的には、私は、大川は非常に頭の良い人物だったと確信しています。頭が良すぎて精神の異常を宣告されたのです。彼は裁判の終わりごろに療養所から出てきました。彼は誰よりも頭が良くて、頭が良かったから患者を演じることができたのです」

 演技だと見ていたようです。それにしても「正義の実現ではない」という発言が正常ではないと捉えるとは連合国の認識が伺えます。

 東京裁判の速記者の寺戸満里子さんの話があります。
「いきなりパジャマ姿で法廷に現れたり、場違いに飄々とした表情で検察官や裁判官の発言に耳を傾けたり、突然奇声を上げたりしていました。丸メガネ姿は有名ですが、私が見たときはメガネはかけていなかったかな。なんだか背骨が無いタコかクラゲのような、変な動きもしていました」
「私は今でも、『芝居だったのでは』と考えています。だって、すごく頭のいい人だったわけだし・・・どこかに計算があったのではないでしょうか」

 うーん、やはり意を決した芝居のような気がします。



参考文献
 「秘録 東京裁判清瀬一郎著
 「東京裁判とその後」B・V・A・レーリンク/A・カッセーゼ編/序 小菅信子
 「新潮45」2009.8『速記者は見た!東京裁判 土壇場の人間学』菊地正憲

参考サイト
 WikiPedia極東国際軍事裁判」「大川周明
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 弱腰外交に国民が怒った「ロンドン軍縮会議」 http://blogs.yahoo.co.jp/jjtaro_maru/20051383.html

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