ゴーマンしすぎてますよ、よしりん
SAPIO5/26に小林よしのり氏の「天皇論 追撃篇」で同氏は「男系絶対論者」は「カルト」と呼んでいます。
小堀桂一郎
「昨今、『なぜ人を殺しちゃいけないの』と子供に聞かれて答えられない小学校の先生や親がいるという話があります。それと同じことでして、そういうことに決まっているからいかんのだ、ときっぱり答えることが大切なのです。(中略)なぜ男系でなければならないのか、という問いに対しては、『男系の皇統を守るというのが日本の皇室の伝統です。答えはそれ以外にありません』と突っぱねればよろしいと思うのです」
この小堀氏と同様の意見を述べる櫻井よし子氏ともども小林氏は「思考停止」と断じています。小林氏は「男系絶対主義」は「シナ文明の家族制度であり、日本の文明でも伝統でもない」と延べ、武家社会の女系継承容認をあげ、男系継承は「シナ文化を不完全に模倣した因襲」と述べています。
小林氏がシナの文化、武家社会と比較するわけがよくわかりません。武家社会は戦闘集団なわけで、祭祀王(天皇)とは性質がまったく異なります。また、シナ文化で同氏は孔子の家系の男系継続をあげていますが、孔子も祭祀王ではありません。
小林氏は著書「天皇論」の中で明治学院大学の原武史教授が「今上天皇が祭祀に熱心」と述べている部分に対して次のように述べています。
「熱心だから、なさるのではない。天皇だからなさるのである」
天皇だから祭祀をする。祭祀をするから天皇というのだ、ということを言っています。なぜ祭祀をするのが天皇なのか?と聞くのは愚問でありましょう。同じように「男系」だから「天皇」であり、なぜ男系なのか?と聞くのも愚問になります。国民の安寧と五穀豊穣を祈り、男系によって継承されてきた現人神を「天皇」と呼んでいるのです。祭祀を止めても男系でなくなっても「天皇」ではなく、別のものになるということです。
上智大学名誉教授の渡部昇一氏は男系は「種」であり女系は「畑」という説明をしています。「種」を継承すれば「畑」はどこであっても同じ植物が育ち、イネを植えればイネが育ちます。「畑」を継承して「種」はなんでもよければ、別の植物が育ちます。つまり、男系をやめて女系になれば別物になるということです。
この説明からいうと武家社会は戦闘集団だから畑を変えても強い植物が育ちさえればいいので、種の継承にはこだわらないといえます。しかし天皇は変わらぬ祭祀を守り続けるため、変わらぬ「種」を継承する必要があるといえます。
どうして小林氏が錯誤してしまったのか不明ですが、「正論」6月号に皇学館大学の新田均教授が小林氏の矛盾点を鋭く指摘しています。ここで紹介すれば長くなるので、「チャンネル桜」の解説映像がありますので、興味のある方は覗いてください。【新田均】小林よしのり氏の女系論を検証する Part3[桜H22/5/20] http://www.youtube.com/watch?v=MSJ7I-8oBRI
ついでですが、小林よしのり氏は「本家ゴーマニズム宣言」の中で沖縄の基地問題について「国からいっぱい補助金出しているからこそ食っていけるんだろ。沖縄は基地を容認しろという言い方をする自称保守派が異常に多い」とチャンネル桜もそのひとつと非難していたようです。桜の水島氏は「事実無根の嘘」であると小林氏に直接会って問うと、小林氏は反論できず「それなら単行本の時、削るから」と言い残して逃げていったと言います。
このところゴーマンしすぎていやしませんか?よしりん。
参考文献
SAPIO 2010/5/26「天皇論 追撃編」小林よしのり
「天皇論」小林よしのり著
「渡部昇一の昭和史(続)」渡部昇一著
「正論」2010.6『小林よしのり”天皇論”を再読する』新田均
WiLL2010.5「メディアの”報道しない自由”の危機」水島総
添付画像
豊原周延の絵(PD)
中央が明治天皇・昭憲皇太后。字が細かいのでわかりにくいが、後ろはイザナミ、クニトコタチ、イザナギ。
右の杖を持っているのが神武天皇。天照大神も描かれている。