スエンソンが見た横浜

フランス山、港が見える丘公園。




 慶応2年7月1日(1866年8月10日)、フランス海軍士官のエドゥアルド・スエンソンは横浜に上陸しました。この頃の横浜は開港して7年が経っていました。

スエンソン
「海から見ると横浜は完全にヨーロッパの町である。小さな庭と花壇に囲まれた美しい住宅の列がこちらの丘から向こうの町まで続いている」

 既にヨーロッパ風の建物が建ち並んでいました。明治になって日本を訪れた旅行家のイザベラ・バード「横浜はどのようにも印象的ではありませんでした。このような混成の都市は少しも心に残りなどしません。山手はボストン郊外、海岸線はバーゲンヘッド郊外の亜熱帯の幻想を足したようなもので・・・」と酷評していますが、スエンソンは気に入ったようです。スエンソンはそれまでベトナムに滞在し、病気になり、「コーチシナ(ベトナム)の焼け付くような太陽とドナイ河の毒々しい悪臭が、日本の森の木陰と爽やかな潮風と入れ替わってくれるよう、全身全霊で願っていたのだった」と、こういう思いで日本に上陸したからかもしれません。

スエンソン
「祖国と家族から遠くはなれて使命を果たすのが普通な英仏の軍人は、この美しい国日本、陽気で親切な住民に立ち交じって暮らすのが幸せで、充分に満足している。日本の和やかな空の下、微笑む自然の懐に包まれて彼等は重労働を忘れ、厳しい船員生活と不健康な熱帯の気候がもたらした数々の病や傷をいやしているのである」

 この頃の横浜には英仏の駐屯軍が居ました。なぜ外国の軍隊が横浜にいたかというと、攘夷派による外国人襲撃のほか、薩英戦争や下関戦争といった不安があり、江戸幕府は駐留を認めざるを得なかったのです。

スエンソン
「横浜で住み心地のよい所を選べといわれたら、お山を選ぶしかあるまい。すでに詳しく描写した本館には士官たちの集会所がある。その窓の下を、町の西洋人のほとんどが、毎日のように丘の反対側にある景観、ミシシッピの谷へ向かって通り過ぎていった」

 お山というのは今のフランス山のことです。つまり「港が見える丘公園」周辺一帯のことです。このあたりにイギリス、フランスの駐屯地がありました。「ミシシッピ」と言っているのは根岸湾のことです。

スエンソン
「次々と変化するものの、その実単調なこの暇つぶしに飽きたなら、狭い部屋を後にしてお山の坂を駆け上がれば良い。その山腹は日本の庭園術によって魅惑的な公園に作り変えられており、木陰も暗く密生した木立もあれば・・・お山の頂上にたどり着くと・・・そこからは、稲田を前方に、雪におおわれた雄大な富士山を背後に控えた横浜の絶景が眺望できた。さらに、のっぺりした神奈川の海岸がだんだん高まって岩におおわれた山になり、その遠方が青みを帯びたベールに隠されているさま、また一方には、埠頭や浦賀水道、広々とした江戸湾には、日の光に輝く帆は垂れて・・・」

 現在のフランス山は庭園が復元されています。スエンソンのいうほど密生した木立はありませんが、名残は感じられます。「港が見える丘公園」から港は見えますが、建物が邪魔で優れた景観とはいえません。夜景はすばらしいでしょうが・・・

スエンソン
「この平和でしかも生き生きとしたパノラマに我を忘れることが何度あろうとも、目や頭が疲れたりすることなど決してなかった。視線は日に日に見るべき美観を新たに発見し、日がたつにつれてますますこの景勝から離れがたくなるのであった」

 嗚呼、車などの雑音もなく、自然の音と遠く響く船の汽笛だけ聞こえる中で自然の大パノラマを観賞できる場所が横浜にはあったのですね。新文明を取り入れるためとはいえ、失われたことは実に惜しい。

 スエンソンはとにかく精力的に日本見聞を行っています。また、大阪で大君(将軍・徳川慶喜)に謁見できるというラッキーぶりを発揮しています。そして1年の滞在を終えて帰国しました。スエンソンはデンマーク生まれであり、帰国するとコペンハーゲン刊行の「フラ・アレ・ランデ」誌に日本訪問記を<日本素描>と題して連載し、デンマーク国民の対日関心の高まりに応えました。そしてその後も通信事業で日本に関わることになります。



参考文献
 講談社学術文庫「江戸幕末滞在記」エドゥアルド・スエンソン(著)/ 長島要一(訳)
 講談社学術文庫イザベラ・バード日本紀行」イザベラ・バード(著)/ 時岡敬子(訳)
 神奈川新聞社「わかるヨコハマ」横浜市教育委員会/かながわ検定協議会(編)
 有隣堂「図説 横浜外国人居留地」横浜開港資料館(編)

文頭の画像
 現在のフランス山(JJ太郎撮影 PD)

横浜開港記念推奨サイト
 横浜開港資料館 http://www.kaikou.city.yokohama.jp/index.htm
 横浜税関 資料展示室のご案内 http://www.customs.go.jp/yokohama/museum/tenjishitsu.htm
 横浜都市発展記念館 http://www.tohatsu.city.yokohama.jp/

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フランス山の風車

フランス山の庭園

港が見える丘公園から桟橋方面

港が見える丘公園からベイブリッジ方面

外人墓地

いずれもJJ太郎撮影画像。パブリックドメイン。ご自由に転用していただいて結構です。


横浜いれぶん 木之内みどり
http://www.youtube.com/watch?v=t337LhZ1JXA