「宗谷」南極へ

戦後の夢を乗せて宗谷は南極へ。


 昭和30年(1955年)6月、「国際地球観測年(IGY)特別委員会」が設けられ、各国の南極計画はこの委員会の「南極会議」で検討されることになり、第一回目の会議が7月にパリで開催されることになりました。日本はこの第一回南極会議に文書で南極観測参加の意思を伝えるとともに、9月にブリュッセルで開催される第二回「南極会議」で決定される南極観測計画に具体的なプランを提示して、是非とも南極観測計画に加わりたいという意思表示を考えていました。

 日本の南極行きの仕掛け人は朝日新聞記者の矢田喜美雄という人で、朝日新聞の社会面に13回におよぶ「北極と南極」と題した連載を書き、「国際地球観測年」が訪れ、各国が南極観測に力を入れていることを紹介し、暗に日本も参加を、と読者に思わせ、朝日新聞専務の信夫韓一氏と積極的に動きました。矢田記者は学会へ打診を行い、日本学術会議、東大物理学教授の茅誠司教授を動かしました。茅会長は海上保安庁・島居辰次郎長官を動かし、文部省の松村健三大臣を動かしました。そして資金の目処は立たなかったものの第二回ブリュッセルでの「南極会議」に参加することになったのです。

 「南極会議」では東大教授の永田武(のち、南極観測隊隊長)がスピーチを行いますが、「日本には、まだ国際社会に復帰する資格などない」大東亜戦争を根に持つ白人らから手厳しい意見が寄せられました。しかし、最後はアメリカとソ連の賛同を取り付けることができ、日本の南極行きが承認されました。

 南極行きは日本国民の関心を集め、朝日新聞は1億円を提供し、広く国民への募金を呼びかけ、それに小中学生を含む多くの人が応え、宗谷の出航までに1億4千500万円が集まりました。船は新規に建造する案のほか、外国船のチャーター案もありましたが、総合的判断で「宗谷」に決定。宗谷の改造工事が始まり、監督官の海上保安庁・徳永陽一郎は間に合わせるためのすさまじい工事に不眠不休で張り付いていたといいます。

 南極へ向けて出発の日を迎えるまで、宗谷の改造だけでなく、諸準備も大忙しでしたが、人の対立も烈しく、早稲田山岳部と東大山岳部の対立や各新聞社による功労者である朝日新聞包囲網などあり、隊長の永田武はワンマンな人で、諸対立を起こし、ついに朝日の功労者、矢田喜美雄を隊員からはずすまでに至っています。

 そして昭和31年(1956年)11月8日、出航式典が開かれ、松本満次郎船長以下77人の乗組員、永田武隊長以下53名の観測隊員、22頭のカラフト犬、1匹の猫、二匹のカナリヤが「宗谷」に乗り込みました。「いってらっしゃーい」「お元気でー」と群集の見送りに宗谷は「ボー」と長く尾をひく汽笛で応えました。

 操舵員・三田安則
「この感激は生涯忘れ得ぬものであろう。海に生きる男の生きがい、男冥利、涙は嬉し涙、感激、唯感激の一刻であった」

 12月29日、寄っていたケープタウン港を出航。暴風圏を突破し、越年します。1月4日、卓上氷山を発見。南極海に到達。7日、南極ツバメとスノーバードが飛来してきました。陸地は近いということです。10日、セスナとヘリを飛ばし、プリンスハラルド海岸から奥地まで航空写真を撮りました。

 1月16日、宗谷はプリンスオラフ海外に向けて進入を開始。宗谷は砕氷と爆破を併用し進み、24日に接岸。そして設営作業に取り掛かりました。29日(日本時間30日)、日の丸を掲揚し、君が代を斉唱し、正式上陸日と定め、「昭和基地」と命名しました。

 2月15日、越冬隊員とカラフト犬を残し、宗谷は日本へ向けて出航。途中で氷に阻まれ動けなくなり、宗谷もろとも越冬の危機に瀕しました。宗谷のピンチは日本国内で報道され、「ソウヤ ガンバツテ!」、と宗谷の通信室には小学生らの激励電報が続々と入ってきました。そしてソ連の「オビ号」が救援に駆けつけ、宗谷はピンチを脱出しました。

 三田安則
「2400、遂に外洋へ脱出成功。猛烈なるウネリの歓迎にあう。感謝電、打電。メッセージを交換、別る。思えば一ヵ月半の海。海鷹・オビの友情に感謝す。国民の熱誠に感謝。多くの人々の友情の賜と思う」

 4月23日、宗谷、日本に帰還。宗谷、乗組員、観測隊は海から陸から歓呼の声で迎えられました。



参考文献
 並木書房「奇跡の船『宗谷』」桜林美佐(著)
 新潮社「特務艦『宗谷』の昭和史」大野芳(著)
添付画像
 日本が発行した国際地球観測年記念切手。宗谷のシルエットが描かれている。(PD)

広島ブログ クリックで応援お願いします。

<宗谷 南極探検関連リンク>


白瀬南極探検隊記念館 http://hyper.city.nikaho.akita.jp/shirase/



白瀬日本南極探検隊100周年記念プロジェクト http://www.shirase100.jp/index.html


TBS TBS日曜劇場「南極大陸」 http://www.tbs.co.jp/nankyokutairiku/

船の科学館 南極観測船”宗谷” http://www.funenokagakukan.or.jp/sc_01/soya.html
日本財団図書館 船の科学館 資料ガイド3 南極観測船 宗谷 http://nippon.zaidan.info/seikabutsu/2002/00032/mokuji.htm

みらいにつたえるもの http://www.geocities.jp/utp_jp/soya.html