闘将・牛島満と沖縄県民



 牛島満沖縄戦で有名で、アメリカ軍事評論家のハンソン・ボールドウィンは「太平洋戦争において日本の名将を二人あげるとするならば、陸の牛島・海の田中」といわれているほどです。支那戦線でも「日本に牛島あり」といわれ、支那蒋介石側のラジオ放送で「野戦で一番強いのは日本の牛島旅団、二位が蒋介石直系軍」というような放送がされたといいます。
 軍人としてのタイプとしては大山巌タイプで、部下の能力を存分に発揮させるため、作戦は参謀に任せて余計な口は挟まない。しかし、全責任は自己が負う、というスタンスでした。
 一方、心根の優しい軍人で、支那戦線で、ある村付近を巡視していると、農家に傷ついた老婆が寝ており、その老婆に支那語で話しかけ、身寄りがないことを知るや、みずから背負って軍の治療所に行き、軍医に事情を説明して、手厚く治療するよう頼み込んだといいます。こうした牛島満の心根は沖縄戦時でも見られますが、おそらく今は隠されていることでしょう。
 
 支那戦線から内地にもどった牛島満は昭和17年(1942年)8月には陸軍士官学校校長に任命されています。昭和19年9月第32軍司令官に任命されました。日本が劣勢になるにつれ牛島は夫人にこう漏らしていたといいます。

「私だけがのうのうと教壇に立っていては相すまぬ、戦死覚悟で奉公したい」

 牛島中将は赴任して住民をどうするか苦慮しています。大陸と違って島なので簡単に避難移動はできません。牛島中将の赴任以前に既にサイパンが陥落しており、沖縄では住民を県外に疎開する方針が定められていました。学童疎開というと対馬丸の事件があがりますが、疎開船は187隻で約8万名を疎開させています。犠牲になったのは対馬丸一隻でした。他に27隻の定期船や兵員輸送船、若年の航空兵志願者や勤労動員者と女子挺身隊などの輸送船が米軍によって沈められています。最近、琉球新報の記事で対馬丸のことが書かれており、第32軍が、米軍の攻撃が激化し南西諸島海域が危険な状況であることを東京へ暗号無線で打電したのに対馬丸による疎開を強行したのは無謀、といっていますが、サイパン陥落により危険な状態は百も承知なことであり、オンボロ船含めて8万名も疎開でき、沈没したのは1隻だけだったことは、疎開に尽力した人や米の潜水艦攻撃をかわす努力した船員の功績をほめてやらねばならぬでしょう。琉球新報の報道は偏向報道です。牛島中将は赴任後、すぐに県知事と住民避難を協議しましたが、対馬丸の報をきいてしばらく瞑目、合掌していましたが、その手は震えていたといいます。(対馬丸の件は緘口令が布かれていた)
 
 また、牛島中将は老人と子供、それを世話する女子は昭和20年3月末までに戦闘が予想されない島北部に疎開するよう指示を出し、戦闘準備に協力する民間人も敵上陸が予想される前に島北部に疎開するするよう指示を出しています。これによって8万5千が避難できるよう見込んでいましたが、実際には1/3に過ぎなかったようです。これは米軍上陸後にも戦線地区の住民は居残っており、米軍の進攻が早く、北部に逃げ遅れたためです。この北部避難計画は八原高級参謀の発案で、住民が米軍の手におちることにつながりますが、参謀はアメリカ軍は文明国の軍隊であります。人道精神に反して、わが非戦闘員を故なく殺傷したり、虐待するようなことはないと信じます。もし島民を主戦場と予想される南部地域にとどめておけば、砲煙弾雨の中を彷徨し、想像を絶する悲惨な結果になりましょう。また軍の作戦に著しく影響するものと思われます」と述べ、牛島中将は「そのような配置を本当に嬉しく思う」と答えています。

 牛島中将はさらに北部への住民避難について食料が不足しており、いざというときは軍の糧食を使うよう周囲に述べています。昭和20年1月には若い島田叡が県知事として赴任し、台湾から米を融通してもらう努力を行いました。沖縄師範学校長の野田貞雄は牛島中将と同じころに赴任してきましたが、牛島中将とは気心しれ、生徒や市民とともに陣地構築などの戦闘準備に協力しました。牛島、島田、野田の3名が軍民一体の象徴であり、沖縄は軍民一体となって米軍を迎え撃ちました。この軍民一体の戦いこそ沖縄県民斯ク戦ヘリ」と言わしめたのであり、その勇戦ぶりが「県民ニ対シ後世特別ノ御高配ヲ賜ランコトヲ」となったのです。



参考文献
 「沖縄に死す」小松茂朗
 「沖縄戦『集団自決』の謎と真相」『沖縄戦における軍官民関係』原剛
参考サイト
 WikiPedia牛島満」「対馬丸
 
文中に登場する琉球新報の記事
  悲しみなお深く 32軍「多くの敵」 対馬丸撃沈の10日前に打電
    http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-163935-storytopic-145.html
    
添付画像
 牛島満(PD)
 
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