オールコックが注目した日本の美

オールコックは日本の美を欧州に紹介した。




 イギリスの公使オールコック安政5年(1858年)日英修好通商条約が締結されたのち、極東在勤のベテランとしての手腕を買われ、初代駐日総領事に任命され、安政6年5月3日(1859年6月4日)に来日しました。オールコックは日本の工芸品に注目しています。

 オールコック著「大君の都」より
「すべての職人的技術においては、日本人はひじょうな優秀さに達している。磁器、青銅製品、漆器、冶金一般や意匠と仕上げの点で精巧な技術を見せている製品にかけては、ヨーロッパの最高の製品に匹敵するのみならず、それぞれの分野においてわれわれが模倣したり、肩を並べることができないような品物を製造することができる」

 日本の工芸品の精巧さを述べています。また美術について次のように書いています。

「人物画や動物画では、、わたしは墨でえがいた習作を多少所有しているが、まったく活き活きとしており、実写的であって、かくもあざやかに示されているたしかなタッチや軽快な筆の動きは、われわれの最大の画家たちでさえうらやむほどだ」

 このころの西洋の美術というのはシンメトリーという対称性や黄金比率によって安定を重んじたレイアウトなのに対して日本の美術はアンシンメトリーであり、動的なレイアウト構造に独自の美意識を描写していました。西洋の美術観からすると斬新なもので、これがジャポニズムブームに発展していくわけです。

「動物の描写にかけては、素材に何を使おうと、かれらはただたんにかたちだけを研究したのではなくて、それぞれの習慣と生活をも研究しているように思える。それもひじょうに正確でくわしく観察しているので、かれらは主題を十分に自分のものとし、二、三本の線と筆の一刷きで、自然を誤り無く模倣している」

 西洋人は人間は自然は征服すべきものとしていますが、日本人は人間は自然の一部であり自然は畏怖すべきものとしてとらえていました。森羅万象に神が宿るという考え方です。そうした自然観は日本画、書、茶道、庭園、装飾美術工芸といったものに反映され、この美がジャポニズムとして世界を席捲していくわけです。

 オールコックは日本の芸術品他日用品まで収集し、これをロンドンの万国博覧会に展示しようとしていました。そして江戸幕府にその希望を伝えると幕府は好反応を示し、出品に協力したいと申し出てきました。オールコックは日本の芸術は絶対に欧州で注目されると思っていたのでしょう。この成り行きには大満足で、幕府へ返事を出し、本国へは「私は・・・(万博への出品に関する)日本の代表に自分自身を任命した」と書送っています。

 オールコックは614点の品物のカタログを自ら準備し、本国へ送りました。漆器、わら細工、籠、陶磁器、冶金製品、和紙、革製品、織物、彫刻、絵画、挿絵、版画、機械(オランダから学んだもの)、教育用の作品と器具、玩具・・・。幕府からは紙製品と日本の硬貨一組が提供されました。

 文久元年(1862年)、ロンドン万国博覧会が開催されました。当時の世界約70カ国からの出品がありました。日本の使節団も到着しました。この使節団の中に福沢諭吉がいます。オールコックは遅れて到着。日本の使節団は西洋人の注目の的となりました。ヨーロッパの軍隊や外交官の礼服の中にあって、東洋の輝きは伝説から抜け出したようにエキゾチックで、目の当たりにした西洋人観衆からざわめきが洩れました。

 日本の出品物は大好評でした。実は安政2年(1855年)のパリ万国博覧会でオランダが日本の家具、屏風、陶磁器、版画、書物を紹介しており、高い芸術性と精緻な技術で話題をさらっていたのです。ロンドンの出品で本格的ジャポニズム流行のきざしが見えてきました。ところが、日本の使節団には不評だったのです。他国の文明の利器の中で日本の品物はみずぼらしく見えたようです。蓑笠や草履といったものも展示されていたのも理由の一つのようですが、何しろ展示してあるのは芸術的といっても日本人からみれば日常の生活の中にあるものだったからです。それは当たり前で日本の芸術は日常の生活から生まれたものですから・・・

 5年後の慶応3年(1867年)のパリ万国博覧会では日本は正式に参加しました。ここでも日本の工芸品や浮世絵は大好評で、日本家屋が会場に再現され、日本髪で振袖姿の芸者が給仕する茶店という趣向は大ヒット。中には着物を借りてその場で着て、これを譲って欲しいというパリジェンヌもいたといいます。



参考文献
 岩波文庫「大君の都」オールコック(著)/ 山口光朔(訳)
 文藝春秋「美のジャポニズム三井秀樹(著)
 中公新書オールコックの江戸」佐野真由子(著)
 双葉社「江戸明治 遠き日の面影」

添付画像
 1873年ウィーン万博に出品された磁器。染付花籠文。(PD)

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