幕末に来日した外国人は日本の芸術品に飛びついた

世界が熱狂した"ジャポニズム"




 エルギン卿使節団のオリファント 安政5年(1858年)来日
「これらの会所(下田の会所)はもっとも人をいらいらさせる場所である。そこにはたくさんの品が並び、どれも美しく新奇なので、人は唖然とした気持ちになり、覆いかぶさる懐の負担を痛感しながら、光り輝く珍しい品々並ぶ道を歩き回る。何を選んだらよいか、どんな品が故国で一番喜ばれるか」

 同使節団オズボーン
「出島のオランダ会所は、多様な趣味よき形態をもつ磁器や漆器で一杯だった。"珍品"の数々にもう満腹という気分になったかに思えたが、そういう受け付けませんといった感覚は急速に誘惑に座をゆずった。最初に起ったのは一切合切買い占めたいという欲望だった。それほどみんなとても美しかったのだ」

 "ジャポニズム"という言葉を聞いたことがあるでしょう。"アールヌーボー"はどうでしょうか。これより日本の美が世界を席捲することになるのです。それまで西洋はシノワズリーという支那風の美が上流階級でもてはやされており、日本の伊万里焼や漆器も人気で、土壌は出来上がっていました。日本が開国すると爆発的な日本ブームが到来したのです。

 イギリス帆船トロアス号の船長ヘンリー・ホームズは開国半年前の安政6年(1859年)に長崎へ行きました。まだ開国していませんので、船を抑留される危険性がありましたが、しかし日本の役人からいくつかの質問をうけただけで長崎に44日間滞在しました。そこでホームズ船長は町のあらゆる隅々を探索し、日本人の家に上がり込んで飾り棚や箪笥の中までぶちまけて陶磁器、漆器、ブロンズ、刀剣、小箪笥、寺のひな型、金貨、絹、日本の工芸品をかき集めて香港へ向かいました。日本の開国はとても話題になっていたのでホームズ船長は新聞記者のインタビューを受けました。

「あの国民についての私の意見ですって。彼らは世界を驚倒させるでしょう」

すると、その記事によって船長のもとに次から次へと人がやってきて、コレクションを見せてくれとせがまれ、そしてついに売ってくれとせがまれ、購入時の何倍もの値段で売れていきました。

 イギリスの公使、オールコックは日本の工芸品を収集し、江戸幕府も協力して1862年のロンドン博覧会に614点の美術品を展示し、大きな評判となりました。その後のパリの博覧会でも陶器、磁器、美術工芸品、什器類、武具の他、書物、浮世絵の版画、和紙が展示され、6ヶ月の間に入場者は160万人になったと記録されています。そしてあまりの人気に展示品は閉会後にほとんどが売却されました。
 浮世絵は特に人気で北斎、春信、広重、国貞などの大量の浮世絵版画に人々は競うように群がってきました。それまでの欧州の絵画はシンメトリーという対称性や黄金比といった安定した構図が支配していましたが、浮世絵の非対称性色彩調和法、強調性(デフォルメ)、平面性、装飾性に度肝を抜かれたのです。印象派の画家は浮世絵を収集し、強い影響を受けました。モネ、ゴッホロートレックゴーギャン、ホイッスラー、マネ、ルノワール、コロー、デュラン、セザンヌドガといった印象派の大物は浮世絵に強く影響されました。最近の研究ではゴッホは「日本版画派(浮世絵派)」と名乗っていたことが明らかになっています。

ゴッホ「ぼくは日本を愛し、その影響を受け、またすべての印象派の画家はともに影響を受けているが、それならどうしても日本へ、つまり日本に当たる南仏(アルル)へ参らねばならぬ」

 このジャポニズムの広まりをアメリカの動物学者、エドワード・S・モース(明治10年(1877年)来日)は次のように述べています。
「ついには壁画、壁紙、木工製品、絨毯、皿、テーブル掛け、金属細工、ブックカバー、クリスマスカードなどに、さらには鉄道の広告ポスターにさえも、日本式の装飾や表現形式や図案が施されるに至った・・・商業国であるわがアメリカばかりではなしに、芸術愛好国であるフランスも音楽国であるドイツも、さらには保守的な国であるイギリスさえもが、日本装飾芸術の侵略に屈した」

 リバティもティファニージャポニズムの影響を受けました。アールヌーボーの第一人者ルイ・コンフォート・ティファニーフィラデルフィア万国博覧会で日本の工芸技術に衝撃を受け、魚や水草をを浮き彫りにした銀製品は1870年代のティファニー社を代表する作品になり、その後も竹、糸瓜(へちま)、朝顔といった日本的なモチーフを用いたコーヒーポットや盆、花瓶などのヒット商品を生み出しました。西洋の美術観は人間表現を主体としていましたから、日本の自然と一体化したモチーフは斬新的なものだったのです。

 こうした熱狂的ジャポニズムは1920年ぐらいまで続き、終焉を迎えました。既にジャポニズムを吸収して新しい欧米独自の様式に発展していったのです。



参考文献
 平凡社ライブラリー「逝きし世の面影」渡辺京二(著)
 文藝春秋「美のジャポニズム三井秀樹(著)
 中公新書オールコックの江戸」佐野真由子(著)
 ビジネス社「マインドコントロール」池田整治(著)

添付画像
 エミール・ベルナール「石垣に座るブルターニュの女たち」1892(PD)
 浮世絵の平面性と輪郭線の描写の影響がもっともよく見られるという。

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