横浜にきた外国人の最初の観察

外国人が横浜にやってきた。




 安政五年六月十九日(1858年7月29日)、幕府は日米修好通商条約(にちべいしゅうこうつうしょうじょうやく)を結び、同様の条約をイギリス・フランス・オランダ・ロシアとも結びました。安政五ヶ国条約といいます。この条約に基づいて翌年、6月2日(太陽暦7月1日)、横浜が開港されました。そして外国人が続々やってきました。

 横浜に船を下りて入ってきた外国人の観察で共通するところが見られます。

 ドイツ考古学者・シュリーマン(慶応元年(1865年)来日)
「船頭たちは私を埠頭の一つに下ろすと『テンポー』と言いながら指を4本かざしてみせた。労賃としては4天保銭(13スー)を請求したのである。これには大いにに驚いたそれではぎりぎりの値ではないか。シナの船頭たちは少なくともこの4倍は吹っかけてきたし、だから私も、彼等に不平不満はつきものだと考えていたのだ」

 小船に乗り移って波止場に向かう際の運賃が安かったことに驚いています。4文は現代の賃金ベースの換算でだいたい180円くらいです。

 フランス海軍士官のスエンソン(慶応二年(1866年)来日)も「テンポ4枚というかなり安い金で、昼夜を問わず、信頼のおける漕ぎ手が、陸からどんなに離れていようと、客の船まで送り届けてくれる」と感心しています。 明治に入ってイギリスの旅行家、イザベラ・バードも同じような体験をしています。(明治11年(1878年)来日)

「サンパンの料金は決まっているので、旅行者は法外な料金を要求されて腹をたてることもなく上陸できます」

 適性な料金が定められていたことがわかります。それからイザベラバードは「浮浪者が一人もいない」と感心しています。日本の場合、例えば芝居をして金をもらう人を"河原乞食"といったりしたのですが、外国では何か仕事をしてお金をもらえば乞食に該当しないので、「浮浪者がいない」と感じたのだと思われます。また、シュリーマンの手記では北京で随分と乞食に付きまとわれたことが書いてあり、イザベラ・バードも同経験があり、こういう比較で「浮浪者がいない」と感じた部分もあったのかもしれません。それから横浜は当時、関で守られていたので、本当の意味での浮浪者は入り込みにくかったことも考えられます。

 さて、次は税関です。当時は神奈川運上所と言いました。現在の神奈川県庁の場所にありました。明治5年(1872年)に横浜税関と改められました。

 シュリーマン
「中を吟味するから荷物を開けるようにと指示した。荷物を解くとなると大仕事だ。できれば免除してもらいたいものだと、官吏二人にそれぞれ一分(2.5フラン)ずつ出した。ところがなんと彼らは、自分の胸を叩いて『ニッポンムスコ』(日本男児?)と言い、これを拒んだ。日本男児たるもの、心づけにつられて義務をないがしろにするのは尊厳にもとる、というのである。おかげで私は荷物を開けなければならなかったが、彼らは言いがかりをつけるどころか、ほんの上辺だけの検査で満足してくれた。一言でいえば、たいへん好意的で親切な応対だった」

 イザベラ・バードも好意的に受け取っています。

「税関でわたしたちに応対したのは、洋式の青い制服に皮の長靴をはいた小さな役人たちでした。とても礼儀正しい人で人々で、わたしたちのトランクを開けて入念に中身を調べてからまたふたを閉め、ニューヨークで同じ検査をした横柄で強欲な役人たちとは小気味の良い対照を示していました」

 イザベラ・バードはニューヨークでイチャモンつけられて賄賂でも請求されたのかもしれません。日本の官吏は武士であり、礼儀正しく不正などしない・・・と思いきや、イギリスの外交官アーネスト・サトウ文久二年(1862年)来日)は次のように書いています。

「税関の役人どもは極端に堕落していて、輸入税の脱税を計ろうとする外国人に対して多額の賄賂を要求した。最大の悪風の一つは、葡萄酒、ビール、その他の酒類や日用品を大量に輸入しながら『私用』の品だと偽って、輸入税を免除させようとしたことである」

 アーネスト・サトウは日本に25年もいた人です。程度の大小はわかりませんが、武士の恥になるようなことをやっていた官吏もいたようです。西洋の悪徳が伝授されたのか?それを受け入れた武士もいたということでしょう。



参考文献
 講談社学術文庫「江戸幕末滞在記」エドゥアルド・スエンソン(著)/ 長島要一(訳)
 講談社学術文庫イザベラ・バード日本紀行」イザベラ・バード(著)/ 時岡敬子(訳)
 平凡社ライブラリーイザベラ・バードの『日本奥地紀行』を読む」宮本常一(著)
 講談社学術文庫シュリーマン旅行記 清国・日本」ハインリッヒ・シュリーマン(著)/ 石井和子(訳)
 新潮新書武士の家計簿磯田道史(著)
 岩波文庫「一外交官の見た明治維新アーネスト・サトウ(著)/ 坂田精一(訳)

横浜開港記念推奨サイト
 横浜開港資料館 http://www.kaikou.city.yokohama.jp/index.htm
 横浜税関 資料展示室のご案内 http://www.customs.go.jp/yokohama/museum/tenjishitsu.htm
 横浜都市発展記念館 http://www.tohatsu.city.yokohama.jp/

文頭画像
 アンベールが描いた横浜 1874年 元町付近から外国人居留地をスケッチしている(PD)

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