大東亜戦争を生き抜いた「宗谷」

幸運艦「宗谷」。


 戦後、南極観測船となった「宗谷」は昭和13年(1938年)6月に「地領丸」として竣工。昭和14年11月に海軍籍に入り、「宗谷」として海軍特務艦となりました。そして大東亜戦争の中、「不沈艦」の神話が生まれ、遂に大東亜戦争を生き抜いたのです。

 宗谷は海軍籍になってから測量艦として使用されました。測量は正確な海図を作るためのものです。昭和15年6月4日、塗装を灰色一色に塗り替え、船尾には軍艦旗を掲げ立派な姿で海軍艦艇の仲間入りをしました。
 初代艦長は山田雄二海軍中佐です。特務艦の動きを見ると海軍がどこを重視しているかわかってしまうため、秘匿性が高く、山田艦長の子供たちは父親と家の近所ですれ違っても、目を伏せて他人のふりをし、家でも父親と話をするときは小声でしゃべっていたといいます。宗谷の所在を知られないようにするため、艦長の家族まで徹底した教育がされていたのです。
 それでも記念観閲式は見せるためのものだったので、その直前、山田大佐は宗谷に家族を呼び寄せました。息子の健雄は船の中が狭くて小さかったことに驚き、「私達は広いお布団で寝ているのに、お父様はあんなに不自由な寝床しかない」と囁きあったといいます。

 宗谷は千島列島へ航海した後、マリアナ方面の測量を行いました。昭和16年(1941年)5月はグアム島の東南東約1,700kmにあるポナペへ向かい、ポナペとトラック島の間を測量しました。この頃、日米関係が悪化しており、開戦となれば海軍がどこを重視していたかがわかります。宗谷は11月13日、横須賀に帰着し、12月8日の日米開戦は横須賀で迎え、今度は特設輸送艦の指定を受け、大東亜戦争の荒波の中へ突入しました。昭和17年1月9日、宗谷はトラックの夏島に投錨します。しばらくすると連合艦隊機動部隊が続々と到着。宗谷の通信兵・篠田永次郎は「太平洋の真っ只中での機動部隊の行動の一大絵巻は、男と生まれ海軍に身を投じたればこそ見られた幸せの一瞬でした」と語っています。

 宗谷はラバウルの測量を行ったのち、ブーゲンビル方面攻略作戦に参加、そして、ミッドウエー作戦に参加します。しかし、ミッドウエーで機動部隊が惨敗し、測量の機会がなく、その後、ラバウルへ向かいます。宗谷は強運で、ラバウルで連日爆弾の雨が降る中でも機銃掃射を食らっても宗谷への被弾はありませんでした。12月28日、宗谷はブーゲンビル島の北側、ソロモン群島の最北端にある小さな島、ブカ島のクイーンカロラインという入江に湾口測量のため入港します。年明け昭和18年1月28日、測量海図を仕上げるため、朝霧の中、作業を進めていたその時、篠田永次郎は当直後退のため、艦橋の下のラッタルに手をかけ何気なく後方を見ると、白い航跡がサーっと走ってきます。

「魚雷だ!」

 砲員の八田信夫らも魚雷を確認します。

「一本目は交わしましたが、二本目に追いかけられました。宗谷も同じ方向に走っていましたが、そのうちに”ゴツーン”とものすごい音がして艦が揺れました」(八田談)

 この魚雷は不発で、しかも宗谷は砕氷艦型に造られていたため、「フレーム」という人間の肋骨にあたる部分が他の船よりも多く入っていたことで、損害は最小限に留まりました。

 宗谷はこの後、昭和19年2月のトラック島の大激闘で座礁し、総員退去という絶望の中でも奇跡的に沈没せず、昭和20年に入ってから危険な「特攻輸送」でも僚艦が撃沈される中、奇跡的に生き延びました。三陸沿岸沖では逆に爆雷攻撃で敵潜水艦を撃退するという戦果をあげています。このとき敵潜水艦の魚雷の一本が宗谷の下を通過しており、船員の一人は「いやあ、あのときは観念しましたよ。魚雷の航跡がはっきりと見えましたからねえ。ああ、今度こそダメだと思ったところが、なんともないんです」と述べています。どこまでも幸運はついてまわりました。

 昭和20年8月1日、横須賀港が大空襲を受けました。宗谷は戦艦長門、病院船の氷川丸とともにいましたが、長門に攻撃が集中したため損傷は軽微で、敵航空機が被弾して落とした補助燃料タンクのガソリンにみまわれましたが、引火することなく、ここでも宗谷は生き残りました。そして宗谷は室蘭で終戦を迎えました。

 この宗谷の強運は船内にある「宗谷神社」が拠り所とされていました。この「宗谷神社」は南極観測船に改造した際、取り外してしまいました。ところが、その航海でいきなりすごい台風に見舞われ、再び「宗谷神社」をお祀りすることになったという逸話があります。



参考文献
 並木書房「奇跡の船『宗谷』」桜林美佐(著)
 新潮社「特務艦『宗谷』の昭和史」大野芳(著)

添付画像
 船の科学館に展示される宗谷CC

広島ブログ クリックで応援お願いします。

                      • -

<宗谷 南極探検関連リンク>


白瀬南極探検隊記念館 http://hyper.city.nikaho.akita.jp/shirase/



白瀬日本南極探検隊100周年記念プロジェクト http://www.shirase100.jp/index.html


TBS TBS日曜劇場「南極大陸」 http://www.tbs.co.jp/nankyokutairiku/

船の科学館 南極観測船”宗谷” http://www.funenokagakukan.or.jp/sc_01/soya.html
日本財団図書館 船の科学館 資料ガイド3 南極観測船 宗谷 http://nippon.zaidan.info/seikabutsu/2002/00032/mokuji.htm

みらいにつたえるもの http://www.geocities.jp/utp_jp/soya.html


宗谷物語 1
http://www.youtube.com/watch?v=rkCFtZMM9XU

宗谷物語 2
http://www.youtube.com/watch?v=mPNmXkDAwOI

宗谷物語 3
http://www.youtube.com/watch?v=vIhB0Zz82Ew