江戸時代を学校でどのように教えていたか

教科書がおかしい!


 江戸時代は武士が農民を搾取した時代だった。一言でいうと私自身はこのように教わっています。五公五民というような50%も重税を課せられていた。しかも武士には切り捨て御免という特権があった・・・

 加賀百万石の御算用者という会計役、猪山家の家計簿を分析した「武士の家計簿」によると大黒柱、直之の年間のお小遣いは現代通貨価値で言うと76,000円ですから、搾取したのだとするとあまりにも少なすぎます。また猪山家は年収は現在価値でいうと1250万円でしたが、借金はその倍ありました。農民の年貢はタテマエは五公五民でしたが収益性の高い商品作物の導入や農業化工業の進展、農民の賃金収入などといった経済条件を加えると実質は十数パーセントから二十パーセントといったところで、どうみても武士が搾取して、そのおかげで農民が貧困にあえいだとは見えません。

 こうした武士の時代の史観が歪められたのは教科書に大きな要因があるようです。オークラ出版「世界を愛した日本」で歴史教科書を分析していますので、参考にしてみます。

「農民の納める年貢は、武士の生活を支えるもので、農民は、五公五民とか四公六民などとよばれた年貢を取り立てられ、さまざまな労役も命じられた」(日本文教出版


「家康は『百姓が死なぬよう、生きぬようにして取れ』といったと伝えられる。幕府も藩も収入のほとんどは年貢であったので、この方針を用い、農民の衣食住を最低にとどめさせ、検地を行って、年貢をできるだけ多く取ろうとした。その一方で田畑の売買を禁じ、二、三男に土地を分け与えることを制限して、年貢を納める農民の減少をふせごうとした」(日本書籍新社

 これに先生が補足しながら説明すれば、支配する金持ち:武士、支配される貧乏人:農民、というマルクス階級闘争史観に洗脳された生徒の出来上がりー、というわけですね。

 はい、歴史記述で不評の山川の高校生用の教科書を見てみましょう。華やかな元禄文化での庶民の生活を述べたあとに以下のように続いています。

「ところが、下層の町人はかならずしもそうではなかった。まして統制のきびしい農民の生活はまずしく、衣服は麻や木綿に限られ、食事も麦・粟などの雑穀が多く、家屋はかや葺、やわら葺が普通で、居間にむしろをしくぐらいであた。人々はそのような生活のなかで、古くからの風習に根強く支配されていた」

 農民の生活水準がそうだからと言って必ずしも不幸とは限らないのですが、これではマルクス主義史観を持ち、成人して社会に出たら義務そっちのけで「権利」「権利」と叫ぶような大人になりかねませんね。

 「生かさず殺さず」というのはタテマエ論であって、年貢の過剰徴収を述べているわけではありません。西洋の貴族が一人の農民に4,5人おんぶしている絵を何かの教科書で見た記憶がありますが、それらと重なって日本も中世封建はそうだったのか、と教えられる方は考えてしまうでしょう。切捨て御免というは俗説で、徳川家康の農民統制令(1603年)では「百姓をむさと殺候事御停止たり」と農民を理由無く切り殺すことを禁止しています。

 どうやら現代日本人は戦後に入り込んできたマルクス主義史観にすっかりやられてしまっているようです。



参考文献
 「武士の家計簿磯田道史
 「貧農史観を見直す」佐藤常雄・大石慎三郎 共著
 オークラ出版「世界を愛した日本」
 「もういちど読む 山川 日本史」五味文彦・鳥海靖 編
 
添付画像
 名所江戸百景 第104景 「小梅堤」(PD)

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武士の家計簿 映画予告編
http://www.youtube.com/watch?v=q_t6RbCGnJM